今回レビューする作品は、2024年1月より1クール放送されたTVアニメ「ぽんのみち」。原作なしの完全オリジナルアニメで、広島県尾道市の元雀荘を遊び場にする女子高生たちの日常を描いた作品だ。
いわゆるメディアミックス系企画の1つであり、アニメ放送とほぼ同時期に漫画が2作品連載。さらにキャラクター原案は、大ヒット漫画「五等分の花嫁」の原作者で知られる春場ねぎさんが担当するという事で、放送前から期待が寄せられていたアニメ。
だったのだが。。。
期待に反して、世間的な評価はあまり良くなかったようで、個人的な評価も非常に低い。今日はそんな「ぽんのみち」についての感想&レビューをしていこうと思う。
ストーリーと展開について
本作「ぽんのみち」は、女子高生5人が麻雀をしながら何気ない日常を過ごすアニメだ。きらら系作品のヒットからブームに火が付いた、美少女×〇〇の趣味というジャンルの作品であり、主におっさんが好きな趣味をやらせることから、ネットでは美少女におっさんの趣味をやらせるアニメとも言われていたりいなかったり。
「ぽんのみち」も例に漏れず、女子高生たちが麻雀をする、もしくはただ日常を過ごす”だけ”のアニメである。ここでポイントなのが、本当に麻雀をするだけなのだ。
例えば、麻雀で全国制覇を目指す!や、麻雀を通じてぶつかりあったり友情を深めるとか、そういった縦軸のストーリーはなく、ただひたすらに麻雀をしたり遊んだりという日常を過ごす。よって、ストーリーらしきストーリーはなく、麻雀を通じて何かドラマが生まれるような作品ではない。
これが良いか悪いかは別として、もしきらら系を始めとした女の子達の日常アニメを作りたかったのであれば、「ぽんのみち」のコンセプトはまったくもって見当違いの作風だ。企画した人は何もわかっていないと声高に言いたい。
ドラマや笑いがない日常アニメという愚策
女の子達が中身のない日常を過ごす”だけ”の作品は、ハッキリ言って人気は出ないのだ。基本的には売れないのだ。例えば、同じく麻雀をテーマにした漫画およびアニメに「咲-Saki-」という作品がある。
この作品も同じく麻雀×美少女だが、根底にあるコンセプトは、スポ根であり異能バトルであり、男性ファンを狙い撃ちしたお色気要素だ。登場するキャラクター達は、部活で全国制覇を目指すために切磋琢磨し、時に悔しい思いをすることもあれば勝利に喜び、そこに百合要素や友情、ドラマがあるから、多くの視聴者に響いた。
また、美少女日常アニメのパイオニア的存在でもある、きらら系アニメで例えてみると、売れた作品は、そのほとんどに何気ない日常だけではなく、本筋のストーリーがあり、心を揺さぶるドラマがある事がわかる。
近年大ヒットした「ぼっち・ざ・ろっく!」に始まり、「けいおん!」、「NEW GAME!」、「きんいろモザイク」、「ゆるキャン△」などなどが例に当てはまる。
まあ、「ゆるキャン△」や「ごちうさ」に関しては、ややズレているが、別の要素で圧倒している部分があるため、多くの人に受け入れられたことがわかる。(また別の記事で書こうと思う)
さらに、日常アニメに不可欠な要素として、「笑い」がある。これはギャグネタや、それに対するツッコミで視聴者を笑わせる事ではなく、キャラクターの掛け合いややり取り、会話劇、リアクションなどで笑いをとる要素だ。
これらのドラマや笑いの要素がかみ合った時に、初めて多くの人に響く「美少女達の日常アニメ」が生まれる。そして、残念ながら「ぽんのみち」にはそれがない。皆無と言えるほどに、お粗末な脚本と演出だったのだ。
オリジナル作品の弱点であるキャラクターの個性の弱さ
では、なぜ多くの人に響く脚本やキャラクター達の掛け合いを作品内で表現できなかったのか?これはキャラクターの弱さにある。つまり個性の欠落だ。
アニメや漫画に登場するキャラクターを記号でしか見れていないクリエイターは、キャラクターに命を吹き込むことができない。彼ら彼女らも一人の人間であり、画面の中に居るはずなのに、キャラの内面の設定がお粗末だと、言動から魂を感じないのだ。
そしてオリジナル作品は、キャラクターに命を吹き込み、個性を出す事を非常に苦手としており、残念ながら「ぽんのみち」も、その苦手な部分を克服できなかった作品と言える。
漫画や小説作品の場合、一人の作者が時間をかけて、もしかすると10代の頃から頭の中で思い描き、温め続けたキャラクター達が、一つの作品内において自分の意志で考えて行動をする。そのキャラクターの作り込み具合は、コンテンツビジネスの企画で生み出されたキャラクター達では到底真似できるものではないのだ。
その結果、薄っぺらく中身のないキャラクターが量産され、何も響かない芯の無いセリフや、ブレブレでキャラが定まっていない女の子達による掛け合いという、非常につまらないものが生まれてしまう。さらに、作品内に必要性を感じないマスコットの鳥キャラの存在など、ことごとくズレた要素が多い。
「ぽんのみち」だけではないが、昨今はそのようにキャラクターや世界観、設定の作り込みの浅い、甘いオリジナル作品が多く、これではヒットは難しいだろうと感じる。いかにプロの漫画家や小説家が時間をかけてゆっくりと作り込み、編集が軌道修正をし、そして何よりクリエイターとしての圧倒的なセンスに満ち溢れているかを、オリジナルアニメを企画する人達は考えてほしいものだ。
序盤のパロディネタがネットで賛否
「ぽんのみち」本編に話を戻すが、この作品は序盤のスタートダッシュで躓いた作品と言える。昨今のアニメブームで1クール内に放送されるアニメ本数が爆発的に増えた事で、3話切りどころか1話切り、事前情報による0話切りも増えている中、「ぽんのみち」は前述したキャラ原案の事もあり、少なくとも放送前はそれなりに期待されていた側の作品だったと思う。
しかし、いざ1話が始まってみると、序盤からいきなり麻雀漫画のパロディを連発したのだ。パロディが悪いとは言わない。むしろ上手く扱って笑いを誘う事ができれば、作品の評価も上がるし、どんな作品であれ視聴者や読者が気付かないだけで、作者がリスペクトしている作品のパロディは多少あるものだ。
ただ、本作はそのパロディの使い方が悪手も悪手だ。キャラクターの性格や個性を視聴者にまったく伝えていない状態で、これ見よがしに福本伸行さんのカイジやアカギ、また他の麻雀やギャンブル系漫画のパロディネタを入れてくる。
私たちは、「ぽんのみち」に登場する彼女達がどういう性格で、どういうリアクションをするのか、まったく知らないのである。そんな状態でパロネタを見て、果たして笑えるだろうか?
ただ寒いだけである。
せっかくの可愛いキャラクター達が、1話からブサイクな変顔ばかりを見せて、誰が喜ぶのだろうか。実際、見ていて痛々しいほどにスベり散らかしていて、まさに面白くない人が面白い人の真似をしているだけなのだ。言い換えれば、センスのないクリエイターが無理して笑わそうとしているだけなのだ。
もちろん、序盤のパロディからゲラゲラ笑えた人もいるだろう。しかし、アニメを始めとしたコンテンツビジネスは、多くの人に刺さる事で、多くの人にお金を落としてもらわなければいけない。一部の少数派が評価するだけではダメなのだ。
パロディに関しては、使いどころさえ間違えなければもっと笑えたと思えた分、余計に残念というか、制作陣の能力不足を感じた。もっと中盤で、彼女たちの人となりが解った時に、ほんの少しパロディを入れていたら、ほどよく笑えた人は多かっただろう。
何事もそうだが、パロディを入れまくる足し算ではなく、ここぞという時に魅せる引き算の演出を覚えてほしいものだ。
ただ、このパロディ事件は、色んな意味で1話から話題になり、ネガティブな要素としてネット記事でも多く見かけた。ちなみに当Youtubeチャンネルでも動画ネタにしたくらいだ。
昨今のアニメブームでほとんどのアニメが埋もれてしまう中、ネガティブな要素だったとしても話題になった事は、プロモーションの正解だったのかもしれない。私も今この記事を書いている時点で、その他大勢のアニメ以上に記憶に残った作品になっている事は事実なわけだ。
キャラデザ含めてビジュアルは一級品!ただし作画は並み
さて、なかなかネガティブなレビューばかりになったので、ここらで良い部分も話していこうと思う。まず、この作品はキャラデザに限ってはかなり優秀だ。
「五等分の花嫁」で知られる春場ねぎさんの原案なだけあって、どのキャラも可愛らしく、見た目もそれなりに差別化ができている。(主に髪型と服装が違うだけでハンコ絵な事は否めないが…)
また、五等分と同じく5人ともスタイルが良いため、男性視聴者的にはそれだけで視聴するに値する!と感じる人も多いだろう。
しかし、作画は決して良い部類とは言えず、やや怪しいシーンも多い。せっかくの可愛いキャラクターが、作画のクオリティ不足でポテンシャルを発揮できておらず、非常にもったいないと感じた。
各キャラクターの仕草や動きも、それほど練り込まれているわけではなく、そのあたりもキャラの個性不足に繋がっている。ちなみに、OPに関しては映像も曲もなかなかの中毒性で、唯一手放しで評価できる点だ。興味のある方はぜひ視聴してみてほしい。
改めてオリジナルアニメの難しさを感じた
この記事を書いていて思ったが「ぽんのみち」のレビューというより、オリジナルアニメの失敗パターンをぽんのみちを例に解説している感じになってしまった。ただ、それだけこの作品にはほとんど中身や魅力がなかった。
中身がない作品を悪!というつもりはなく、ストレスフリーで何も考えず、頭を空っぽにして楽しめるアニメも必要だと思うので、いつかまた別の時代で評価される事はあるかもしれない。
「ぽんのみち」に限らず、オリジナルアニメはヒット作を生み出すことが難しい。オリジナルアニメで何本もヒットを生み出しているアニメ界の著名な監督やクリエイター、人気漫画家が脚本や原案に参加するならまだしも、何の才能も持ち合わせていないただの会社員が企画会議で考えたような内容では、ほとんどの人に響かないだろう。
作画・キャラ | |
脚本・構成 | |
音楽・演出 | |
総合 |
キャスト・スタッフ情報
十返舎なしこ:前田佳織里
河東ぱい:佐伯伊織
徳富 泉:若山詩音
林リーチェ:近藤 唯
江見 跳:山村 響
チョンボ:大塚明夫
原作:IIS-P
監督・脚本:南川達馬
キャラクター原案:春場ねぎ
キャラクターデザイン:大田謙治
色彩設計:角野江美
美術監督:Scott MacDonald
撮影監督:天田 雅
編集:木村祥明
音響監督:高橋 剛
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
音楽 :髙橋祐子、曽木琢磨、hisakuni、大橋莉子、江口寛至、シャリ
音楽制作:SUPA LOVE
制作協力:雀魂-じゃんたま-、大洋技研株式会社
アニメーション制作:OLM
(C)IIS-P/ぽんのみち製作委員会
■主題歌情報
オープニングテーマ:中田花奈 feat. ぽんのみちオールスターズ『ポンポポポン』
エンディングテーマ:halca『Good Luck Waker』
公式HP: https://ponnomichi-pr.com
公式Twitter:/ https://twitter.com/ponnomichi_pr
公式TikTok:/ https://www.tiktok.com/@ponnomichi_pr
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