ふしぎの海のナディア|レビュー&感想・・・超古代文明のロマンと至高のボーイミーツガール

今回レビューする作品は、1990年4月より放送されたアニメ「ふしぎの海のナディア」。「新世紀エヴァンゲリオン」の原作者として知られる庵野秀明さんのオリジナルアニメだ。

キャラクターデザインの貞本義行さんや音楽の鷺巣詩郎さんなど、エヴァと共通しているスタッフも多く、エヴァ→ナディアという順で見た人はナディアをエヴァっぽいと感じ、ナディア→エヴァという順で見た人はエヴァをナディアっぽいと感じるなど、かなり庵野さんの作家性や実務制作を担当したガイナックスらしさが全面に出た作風だ。

ちなみに私は前者なので、エヴァっぽいと感じるシーンが出るたび頻繁にニヤリとできた。

本作の企画は、ジブリの宮崎駿さんが「未来少年コナン2」として企画したものがベースになっている。(と言われている)

ただ、この企画は放送局のNHKには通らず、宮崎さんはそのアイデアを「天空の城ラピュタ」に生かし、もう一つの形として誕生したのが、「ふしぎの海のナディア」になる。

同じ企画から枝分かれした作品という点で言えば、ゲーム業界の「ファイナルファンタジーⅦ」と「ゼノギアス」、「聖剣伝説Ⅱ」と「クロノトリガー」のような関係性と言えるだろう。

今日はそんな「ふしぎの海のナディア」の、感想及び評価レビューをしていきたいと思う。

キャラクター・序盤の展開について

この作品を初めて見る人は、こう思う人が多いだろう。「あっラピュタっぽい!」と。

冒頭でも書いた通り、元の企画が同じだった事や、宮崎駿さんと庵野秀明さんが師弟関係である事から、キャラクター設定や世界観の設定がかなり近い。

とくに、謎の青い石を持つ少女が悪者に追われ、少年に助けられたところから物語が始まるボーイミーツガール展開は、ラピュタそのものだ。

個人的には、ラピュタという完成された名作の後に、同じような作風のアニメを作る事は悪手でしかないと感じている。下手をすれば劣化ラピュタ、ラピュタの下位互換、チープなパクリと言われかねないからだ。

ただ、そんな不安は数話見ただけですぐに消し飛ぶ。ナディアに登場するキャラクターや世界観は庵野さんやガイナックスらしいオリジナリティが色濃く出ており、ものの数話見ただけで、ラピュタとは完全に別の作品であり、比較対象にならない事を視聴者に強く印象づけてくる。

キャラクターのベースは、宮崎駿作品やジブリっぽさ、世界名作劇場っぽさを踏襲しつつも、脇役含めたそれぞれの人物には強く譲れない信念を垣間見ることができ、そこに庵野さんお得意の、めんどくさい男女や親子関係の描写が合わさって、どのキャラクターも魅力的かつ個性的に描かれている。

子供達の視点、大人の視点など、各キャラクターがそれぞれの立場、境遇で感じた事をしっかりと言葉にするため、存在感のある一人の生きた人間として受け取る事ができた。

ビジュアルこそジブリや世界名作劇場っぽく見えるが、ただの量産キャラクターで終わらせないあたりに、プロのクリエイターとしての実力を感じる。

世界観とストーリーについて

本作のベースにある世界観は、みんな大好き?超古代文明だ。

2010年代以降はアニメでもゲームでもめっきり見かけなくなったジャンルだが、1990-2000年代くらいまでは王道ジャンルで、ゲームや漫画、アニメでもよく取り扱われたテーマだ。(1990年以前の事は世代じゃないので知りません…)

少年と少女が文明崩壊後の世界で出会い、古代文明の謎に迫っていくというプロットはロマンに溢れており、同世代の青少年からSF好きの大人まで刺さる人が多いのだろう。私も昔から大好きなジャンルだ。

宮崎駿さんの「未来少年コナン」に始まり、「風の谷のナウシカ」、「天空の城ラピュタ」も近しいジャンルと言える。

また、ゲームだと「ワンダープロジェクトJ及びJ2」や「グランディア」なども同じような作風で、流行った時代的にも、まさにラピュタ及びジブリ好きに向けたような作品と言える。

余談だが、「ワンダープロジェクトJ」はキャラクターデザイナーや声優、開発スタッフ含めて、かなりジブリ作品を意識した作風になっている。J2のOPを見たら、プレイしたくなること請け合いだろう。

話を戻して…作風としては、現代の遥か昔には今よりもっと栄えた文明があり、何かしらの理由で滅びた。そして地下には今でも過去の遺産が残されている…というパターンが多い。

ナディアの世界観も例に漏れず、今では失われた超古代文明の技術を手に入れようと画策する悪と、それを阻止するために立ち向かう主人公一味という構図で物語が展開される。

まぁ…世界観やストーリーに関しては、個人的に好きではあるものの、至ってシンプルだ。ではなぜそんなシンプルなストーリーに39話も必要だったのかというと…。

さすがに擁護できない中盤の間延び展開

この「ふしぎの海のナディア」という作品は、なぜか23話くらいから話が大きく脱線する。沈みゆくノーチラス号から生き延びたナディアとジャン達が無人島に辿りついてからだ。

内容としては、ナディア達が慣れない無人島生活をする中で、喧嘩しながらも懸命に生き、途中でグランディス一味と合流しつつ、ナディアとジャンは男女としての想いを確かめ合うという感じだ。

主人公とヒロインが衝突しながらも仲を深めるエピソードは絶対に必要だし、無人島エピソードそのもに不満はない。内容的にも、かいつまめば良いシーンは多い。

ただ、この展開だけに約12話の1クール分も費やしてしまうのだ。1話から22話までの展開を見ていると、無人島のエピソードは長くても4話くらいで終わらせられる程度の内容なのに、長々と12話も続けてしまう。

途中からはネタ切れしたのか、どうでもいいふざけたエピソードも多くなり、視聴していてかなり不自然さを感じた。で、思うにこれは全39話という放送枠に対しての大人の事情が絡んでいると思われる。

ナディアの物語は大きく4つに分けられる。ナディアとジャンが出会う序盤、ノーチラス号との出会い、そして無人島、最後にナディアの謎に迫る終盤だ。そして、普通に制作した場合、庵野監督の脳内では、ナディアは2クールくらいで終わる物語だったのではないだろうか。

ただ、放送前から全39話で放送枠が決まっていたため、どうしてもどこかで尺稼ぎをする必要がでてくる。その犠牲になったのが、無人島編の物語だったのではないだろうか。無人島のエピソードは作画もかなり粗が目立つようになり、映像からも制作側に思うところがあったように感じる。

本格的に話が動き出すのは35話からになり、個人的に無人島の無駄な12話分は、この作品唯一の評価を落としている点だと感じる。

作画について

作画は最初から最後まで文句無しだ。とくに序盤はOVAかと間違えるほどによく動き表情も豊かで、とくに戦車のグラタンが縦横無尽に動き回るシーンは、ありえない動きをケレン味あふれる作画で生き生きと描いている。

ガイナックスらしい作画とも言えるが、現実では絶対にできない動きだからこそ、アニメーションならではの良さが出ていると感じる。この作画は、のちに制作される天元突破グレンラガンや、後身にあたるトリガー作品でも、魅せ方の遺伝子を感じる事ができる。

人物の作画も、無人島エピソード以外は概ね良い。とくにOPは何度見ても匠の技を感じる。2020年代のアニメではほとんど見る事がなくなった、体の重心や腕や脚の可動範囲が自然な動きを見る事ができ、古き良きアニメーションの魅力が詰まっている。

そして終盤の戦艦バトルだ。どうやら話によると宇宙戦艦ヤマトのオマージュが多いらしいが、私は元ネタを知らないので、純粋に主砲発射時のシークエンス、戦艦同士による駆け引きやバトルを楽しめた。

近年ではロボットアニメ以上に戦艦同士のバトルは見なくなっているため、とても見応えがあった。

個人的に好きなシーン

個人的に好きなシーンは、ノーチラス号の乗組員の1人であるフェイトが非業の死を遂げるシーンだ。おそらく「ふしぎの海のナディア」の中でも一番有名かつ、記憶に残るシーンと言っても過言ではないだろう。

べつに人が死ぬから面白いとか、文字通りの好きというわけではない。死の描き方と見せ方、演出に初見で度肝を抜かれた。

ナディアを見終わった後に知ったが、このシーンは作中だけでなくアニメ史においても屈指のトラウマシーンとして知られているようで、私も事前知識なしで見たため、急に訪れた死の描写に非常にショックを受けた。

途中まではごく普通の展開だ。敵の攻撃により艦内で発生した有毒ガスから乗組員を守るべく、修理のためにガス漏れしている機関室に入ったフェイトだったが、修理が間に合わず隔壁を閉じる事になってしまう。ただ、フェイトは一人の乗組員として、大人として気丈に振る舞い、ジャンに別れを告げる。

ここまでは、他の作品でもよく見かけるお話だ。自己犠牲の精神で他人を守る行為は、アニメや漫画ではお馴染みの勇敢な行為だからだ。ただ、ナディアでの展開は少し違う…。

有毒ガスの濃度が致死量に達したことを告げるブザーが鳴り響くと、先ほどまで理性的に振る舞っていたフェイトが、死の恐怖に耐えきれず「死にたくない!」と泣き叫び、その言葉が、想いが艦内に響き渡る。

別にフェイトが人としてダサいとかかっこ悪くなったわけではない。これが普通の反応だ。その瞬間に、ナディアという物語の中で初めて明確に「死」がリアルで描かれる。今までは爆発しようが、遠くにぶっ飛ばされようがギャグ漫画のように次のシーンではピンピンしている描写をしていた作品が、このような「死」を表現したのだ。

このショッキングなシーンは、作中でコミカルなシーンがいくらあろうが、根底にはシリアスな争いがある事を明示し、いっきに作品への向き合い方を変えてくれた。いや強制的に変えさせられた。

また、声優の関俊彦さんのお芝居も素晴らしい。ナディア時点でもすでに売れっ子声優と言えるくらい出演作も多いが、ほんのちょい役にもかかわらず、とてつもない存在感を見せてくれた。

私は声を聴いた瞬間に特徴のある声で関さんだとすぐにわかったが、知らない声優さんだったらすぐにWikiなどで調べただろう。

アニメの「死」の表現も色々とあるが、死に直面した時の人間の恐怖心をこれだけリアルかつ鮮明に描いた作品は、なかなかないだろう。

庵野監督らしい男女・親子・恋愛の描写

この作品には、大人の男女による痴情のもつれ、思春期の少年少女の恋愛、そして複雑な親子関係の描写が随所に見られる。お気づきの方も多そうだが、そう「エヴァ」でもまったく同じ事をしているのだ。

おそらく全て庵野監督が好きなテーマであり、描きたい事、やりたい事なのだろう。ちなみにナディアの前に監督をした「トップをねらえ!」でも、やはりコーチと生徒という関係性の恋愛を描いているあたり、上司と部下、同僚との恋愛などはご本人の趣味なのだろうか。

引き出しが一つしかないと言えば聞こえは悪いが、それぞれの恋愛描写や男女関係、親子の関係性の在り方は、作品ごとに丁寧に深掘りされており、決してただのコピーだったり安っぽいものではない。

「この人のどこに惚れたのか?」「なぜこの人を大切に思うのか?」という点を、しっかりキャラクターの言動や考え方で見せてくれるため、台詞に重みと説得力があるのだ。

総評

今でも根強い人気のある作品なだけあって、最初から最後まで集中して楽しめた。ちなみに筆者(私)がナディアを見終わったのは、この記事を公開する数週間前だ。

庵野さんの作品はアニメも実写もほとんど見てきて、ナディアに関しても、いつか見たいとは思っていたが、全39話という長さが社会人的には時間的なネックになり、なかなか腰を据えて視聴に踏み切る事ができなかった。(本放送時の視聴は世代が違うので難しい)

ただ、好きなゲームの「スーパーロボット大戦X」での登場で徐々に視聴欲が高まり、2日で1話消化くらいのペースで見る事にした次第だ。

最初はもう少し子供っぽい作風だと思っていたが、例のトラウマシーンや恋愛描写など、思ってた以上に思春期以上の子供を対象にしている作風に感じた。

最後まで腑に落ちなかった要素は、ナディアの菜食主義だ。彼女の菜食主義の設定は後半で何かしらのエピソードで活かされたり、彼女の成長に一役買うのかと思いきや、とくにそんなことはなく、ただサーカス時のトラウマを引っ張っているだけで上手く活かされる事はなかった。

ジャンと同じような押し問答を繰り返すだけで、菜食主義である必要性含めて、最終的に何も解決しなかったのだ。(一応、肉を食べる行為に対しての理解は示したが)

疑問に思ったので調べてみると、どうやら庵野監督も菜食主義のようで、ただ彼女に同じ属性を付与したに過ぎないようだ。また、無人島編ではやたらと菜食主義の設定を引っ張るので、無人島でエピソードを引き延ばすために与えられたキャラ設定なのかもしれない。

総評としては、無人島編の12話分を除けば脚本含めて非常に良作だ。ただ、無人島編も込みで「ふしぎの海のナディア」というオリジナルアニメ作品なので、番組の尺の都合だろうが、そこは関係なく評価したいと思う。

宮崎駿さんが作っていれば、もっとメッセージ性と説教臭さが台詞に滲み出た作風になっていたかもしれないが、本作は至って王道のボーイミーツガール冒険譚として楽しめた。

もちろん、庵野監督的にはメッセージ性や伝えたい事はあったと思うが、それをこれ見よがしに作品上で見せない事も、一つの持ち味だと思う。

余談だが、私は若い頃に「ふしぎの海のナディア」というタイトルを初めて耳にしたとき、子供の頃に見ていた世界名作劇場のオリジナルアニメ「七つの海のティコ」と勘違いをした記憶がある。

情報元がないので真意は不明だが、どうやら「七つの海のティコ」も、ナディアと同じく「未来少年コナン2」の企画から派生した作品なんだとか。言われてみると、確かに類似点や作風に似た部分がある。

SNSが盛んになり、当時のクリエイターの生の声が、思いがけないところから聞けたりする時代なので、今度正確な情報が出てくることに期待したい。

作画・キャラ 3.5
脚本・構成 2.5
音楽・演出 4.0
総合 4.0

キャスト・スタッフ情報

【キャスト】
ナディア:鷹森淑乃
ジャン:日高のり子
マリー:水谷優子
グランデ:ス:滝沢久美子
サンソン:堀内賢雄
ハンソン:桜井敏治
ガーゴイル:清川元夢
ネモ:大塚明夫
エレクトラ:井上喜久子
【スタッフ】
原案:ジュール・ベルヌ作「海底2万マイル」より
総監督:庵野秀明
キャラクターデザイン:貞本義行
設定:前田真宏
美術監督:菊地正典,佐々木洋
オープニングテーマソング:「ブルーウォーター」歌:森川美穂
作詞:来生えつこ
作曲:井上ヨシマサ
編曲:ジョー・リノイエ
エンディングテーマソング:「Yes!I will…」歌・作詞:森川美穂
作曲・編曲:ジョー・リノイエ
音楽:鷺巣詩郎
アニメーションプロデューサー:村浜章司,川人憲治郎
制作:丸山健一,久保田弘
アニメーション:東宝・KORAD
共同制作:NHKエンタープライズ・総合ビジョン
企画制作:NHK
©NHK・NEP

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