ミギとダリ|レビュー&感想・・・シュールなギャグとミステリーに内包された家族と兄弟愛の物語

今回レビューする作品は、2023年10月より1クール放送されたTVアニメ「ミギとダリ」。原作は佐野菜見さんの漫画だ。

1990年頃の神戸市を舞台に、とある老夫婦の養子になった双子の美少年ミギとダリが、2人であることを隠して1人の子供を演じながら生活をする様子を描いた作品。

彼らには本当の母親の死の真相を探るという目的があり、そのために母が亡くなった町に住む老夫婦の養子になった。

一見するとミステリーやサスペンス的な要素を色濃く感じるストーリーだが、実際はシュールなギャグとミステリー要素が混ざり合った独特の雰囲気を醸した作風であり、さらに終盤には涙無しには見られない家族愛や兄弟愛を見せてくれる。

今日はそんな不思議な作品、「ミギとダリ」についての感想&レビューをしていこうと思う。

作画で魅せるシュールなギャグと圧倒的なワードセンス

物語の序盤は、主人公のミギとダリが、老夫婦の元で2人である事を隠し、1人であるように演じながら生活する様子が描かれる。

べつに老夫婦に2人である事がバレたら殺されるわけではない。だが、彼らは心優しそうな老夫婦すらも、母を死に追いやった犯人である可能性があるため、慎重に、ときに狡猾に老夫婦の目を欺いてバレないように生活をする。

ミギとダリにとっては、バレたら養護施設に戻されるか、最悪は殺されてしまうかもしれない命がけの偽装劇なのだが、視聴者からすれば、お笑いコントのような偽装工作や2人の挙動は、とても愉快なシーンとして楽しませてくれる。

双子だからこそできる、シンクロ率100%レベルの共同作業や連携作業、食事の際にぬるりと動きながら入れ替わるなど、アニメならではの奇妙かつ奇怪な動きで双子の偽装劇を見せてくれる。

見方によっては、かなりキモチワルイ動きではあるのだが、その動きこそがこの作品のシュールなギャグであり、魅力なのだ。このギャグが合わない人も多い事は容易に想像がつくので、早々に切った人も多いだろう。

さらに、ギャグに追い打ちをかけるように、実は老夫婦も色んな意味でキャラが濃い。動きやリアクションもコミカルだが、何より圧倒的なのは、時おり思い出したかのように発言する、物の例えやツッコミの台詞だ。

こればかりはレビューのやりようがないのだが、決して上手い例えなどで「座布団一枚!」と言いたくなるようなセリフではなく、「予想の斜め上」の回答で笑いを取りに来る。この老夫婦のツッコミや台詞は、作中で何度も出てくるのだが、正直、作者は天才だと感じた。

焼き上げたパイの大きさを尋ねた時に、「輪入道くらいかな?」と返し、その返しに対して「例えがクラシカルすぎることよ!」と返す夫人。作品の舞台が、古風な日本家屋ではなく、アメリカ郊外を模したニュータウンである事から、その例えにもギャップを感じる事ができる。

さらに、そのセリフをベテランかつ実力派声優の松山鷹志さんと三石琴乃さんが、独特の言い方とテンポ感で話すため、素人くさいスベったギャグになっていない。

そんな感じで、序盤はミギとダリの2人だけでなく、老夫婦2人もシュールなギャグ要員として、物語を盛り上げてくれる。

ホラーとミステリーが忍び寄る中盤

中盤からは、ミギとダリが学校へ行く事になり、友人絡みのエピソードが増えてくる。その友人たちも、一癖も二癖もある個性的なキャラクターばかりで、マンネリしてきた序盤のギャグ展開に新しい笑いを届けてくれる。

そして、その裏ではミギとダリの本来の目的である、母の死の真相にも近づいていく。この町の謎、友人である一条家の謎、そしてミギとダリが幼少期に過ごした家や部屋の壁の模様など…。

視聴者としては母の死が事故なのか殺人なのかすらわからない状態なので、笑えるギャグアニメとして楽しめる一方で、急に本格的なミステリーとしても楽しめるようになる。ここで、作品の方向性が変わったと感じさせないストーリー構成は見事だと思った。

何故なら、序盤からしっかりと縦軸のストーリーとして、母の死の真相を探るというミギとダリの目的が視聴者に明示されていたからだ。なので、笑える作品だったのに、急に血が出るサスペンス作品になって思ってたのと違った!と感じた視聴者は少数だろう。

母の死の真相に迫るシリアス展開に入ってからは、ホラーアニメさながらの、狂気に満ち溢れた演出や動きで狂った犯人の言動を見せてくれ、序盤のシュールギャグアニメとは一線を画す物語が展開される。

まったく予想をしていなかった感動のフィナーレ

終盤になり、ミギとダリの母親の死の真相や、それに関連する事件の謎は解決する。これで2人の物語も終幕…と思いきや、実はまだ解決していない事がある。そう、ミギとダリの2人が、老夫婦の元で1人の人間を演じている事だ。

今まで通りの生活ができると思いきや、一連の騒動でダリが顔に傷を負ってしまったため、交代ができず、表に出られなくなってしまったのだ。そんな状況で、ダリはミギを思いやり、ミギの影として生きる事を決意する。

しかし、幸せそうに老夫婦と暮らすミギを見て、そんな自身の状況を簡単に飲み込めるわけもなく、一人思い悩む。そんな中、老夫婦が、、、と、ここから先は、見ていない人は是非本編を見てほしい。もう思い出すだけで涙が止まらない。

ミギとダリに対する老夫婦の愛情とやさしさ、そしてミギとダリのお互いを想い合う兄弟愛に、しばらく涙で前が見えなかった。

正直、最後の展開はまったく予想をしていなかった。序盤からシュールギャグとミステリーというギャップ要素で楽しむ作品だと思っていたから、終盤の感動展開は、まさに不意打ちだ。だが、不意打ちだからこそ尋常ではないくらい胸に響き、久しぶりにかなり泣いた。

1クールアニメで感動させる構成に脱帽した

ここまで泣けるフィナーレは久しぶりだった。感動アニメ好きとしてはやはり分析したくなったので、なぜこの作品が感動できたのかを綴っていきたい。

やはり、最初から最後までミギとダリの2人を中心とした物語を展開し、それぞれが持つ母親への想いや、兄弟としてのお互いへの想い、友人への想いを深掘りし続けてきた事にあると思う。つまり、キャラの内面を深く掘り下げた事が大きい。

ミギとダリは、仲は良いが小さな喧嘩は日常茶飯事で、恋愛絡みの事ではけっこうな仲違いもした。そんな兄弟を、13話かけてじっくりを描いてきたからこそ、本当の意味で報われた彼らを見て、視聴者としても心から、「ミギとダリが幸せになれて良かった」と思えた。

この作品は登場人物がそこそこ多いが、物語は必ずミギとダリが中心になって展開される。彼らの日常や生活、悩みや葛藤などを多く見てきたからこそ、感情移入できたのではないかと思う。

個人的に、創作における感動は積み重ねに比例すると思っている。1話のオムニバス形式のアニメでも感動できる事はあるが、3年や5年、10年続いた作品で、ようやく報われたエピソードや最終回には到底かなわず、長ければ長いほど、その感動も積み重なるのだ。

だから、基本的に1クールアニメで泣けることはかなり少ない。が、ミギとダリに関しては2クールアニメに迫るほどの彼らを中心とした濃いドラマを見せてくれ、そこに不意打ち的な感動の展開を持ってきたことで、深く心に響いたのだろう。

原作のストーリーをそのままなぞっているので、そもそも原作が良い、原作のストーリー構成や見せ方が上手いという事に落ち着くのだが、それだけではなく、アニメで上手く演出したスタッフや監督、脚本家あってこその感動だと思う。

1クールで笑えて感動もできる傑作!

最後に、声優さんについてあまり書けなかったので、ここで綴っておく。

堀江瞬さん、村瀬歩さん、最高だよ!

最初から最後まで、とにかく芝居が良かった。ミギとダリという中性的かつ不思議なキャラクターは双子というキャラの設定的にも、キャスティングはかなり難航したように思う。

そんな中、中性的な声質の堀江瞬さんと村瀬歩さんの2人を選んだ事は、大正解だったのではないだろうか。

2人の声は、別の作品で聞けば全然違う事がわかるが、「ミギとダリの作品内で聞くと、かなり似ている。だが、双子設定なのだから当然だろう。逆にそれが入れ替わってもバレないという設定に説得力を持たせていた。

そして、最初はどっちがどっちかわからないくらいだったが、徐々にしっかりと性格が差別化されている事がわかり、声も似ているが全然違う事に視聴者は気づいていく。さらに、女装シーンによる女性声の演じ方といい、声優の技術的な面も作品にわかりやすく反映されている事が、一人のアニメファンとして嬉しかった。

1クールアニメでここまで綺麗にまとめた作品はとても珍しく、アニメ放送時はあまり話題にならなかったものの、隠れた名作として今後も語り継がれてほしい作品だ。

最後に

原作者の佐野菜見さんは、アニメ化を2か月後に控えた2023年8月5日に36歳という若さで亡くなられた。佐野菜見さんの作品は、「坂本ですが?」も大好きで、アニメ視聴中はよく笑わせてもらったし、今後も色んな作品を期待していただけに、とても残念に思う。

あなたの作品は多くの人々に笑いを与え、「ミギとダリ」に関しては兄弟と家族愛の感動までも多くの人に与えたでしょう。素敵な作品を本当にありがとうございました。

作画・キャラ 3.0
脚本・構成 4.5
音楽・演出 4.0
総合 4.5

キャスト・スタッフ情報

【キャスト】
ミギ:堀江 瞬
ダリ:村瀬 歩
園山修:松山鷹志
園山洋子:三石琴乃
秋山俊平:浅沼晋太郎
堤 丸太:武内駿輔
一条瑛二:河西健吾

【スタッフ】
原作:佐野菜見『ミギとダリ』(ハルタコミックス/KADOKAWA刊)
監督・シリーズ構成・音響監督:まんきゅう
副監督:榎本 守
キャラクターデザイン・総作画監督:西畑あゆみ
衣装デザイン:本多恵美・満若たかよ・藤井 望
プロップデザイン:Color&Smile
料理デザイン:レコメンデーション
美術設定:平義樹弥
美術監督:若林里紗
色彩設計:のぼりはるこ
3D監督:小川耕平(CompTown)
撮影監督:渡辺実花
編集:後藤正浩
音楽:世武裕子
音楽制作:フライングドッグ
音響効果:山谷尚人
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
アニメーション制作:GEEKTOYS × CompTown

【楽曲情報】
オープニング主題歌
「ユウマガドキ 」/歌:そらるとりぶ

【ウェブサイト・SNS】
公式サイト:https://migitodali.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/MigiToDali
©佐野菜見・KADOKAWA/ビーバーズ

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